山梨の大学に通っていた頃、よく河口湖へ遊びに行った。河口湖には橋がある。河口湖大橋だ。ここは事故多発地帯で自殺も多い。年間に何人も死んでいる。なぜ事故が多いのか友人と検証したことがある。
橋の長さはおそらく300〜400m。湖にかけられた橋だから見通しもよく、まっすぐだ。にも関わらず慰霊の花束が絶えず供えられている。これはきっと、アイスバーンによるスリップが原因ではないかと考えた。晴天続きでも河口湖は富士山からの吹き下ろしの風の為に気温が低く、朝晩に降りる霜は薄いアイスバーンになる。これを知らない人は見通しのいい橋を通る時、ついついスピードを出し過ぎてスリップしてしまうんじゃないか?
だがこの見解は冬しか通用しない。事故は夏にも起きている。ある人からこんな話しを聞いた。河口湖大橋の事故は富士山に向かって走っている場合に多い、と。そこで富士山に向かって何度か車を走らせた。最初は40㎞、次は50㎞といった具合に、10㎞ずつスピードを速めて運転していると、時速80㎞を過ぎた頃から車がおかしくなった。ハンドルがガタガタ揺れはじめ、タイヤはブレてしまい、うまく車体を操作できない。時速100㎞になった時、車体を下から持ち上げられるような感覚のあと、歩道へ乗り上げてしまった。
その日は風も穏やかだった。検証に使った友人の車はエスティマだったので、重量もある。そう簡単に風で浮いてしまうハズはない。歩道に乗り上げてしまった自分の車を見て彼はムシャクシャしてきたのだろう。すぐ目の前に供えてあった事故現場の献花を足で蹴ってグシャグシャにしてしまった。
それから二年経った冬の夜、彼は河口湖大橋から身投げした。自殺する理由も見当たらなかった。やはりここは死にたくなる場所なのだろうか。
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