怖い話 真夏の怪奇│山中湖の怖い話

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これは学生時代、山中湖で住み込みのバイトをしていた時のお話。

バイト先は山中湖の平野という場所にある大きな民宿だった。民宿とは言え、利用するのは大学や高校の夏合宿がメインで、体育館やテニスコートなどもあり、規模的にはかなり大きなもの。ここは友人の親戚で、わたしは友人に誘われて7月初頭から8月末まで働く予定になっていた。

民宿にはコンクリート4階建ての本館と、木造の建物が4つほどあり、一階部分が通路で繋がっている。本館はかなり大きく、各階には廊下を挟んで部屋が10室ずつあった。

住み込みで働く人たちは数人でグループになり、駐車場の脇に建てられたプレハブ小屋に寝泊りしたが、わたしと友人は本館4階の非常階段横に設置されたプレハブに泊まることになった。ここは他より待遇の良い場所だ。駐車場のプレハブ小屋は木影が無く、昼間は容赦ない太陽がギラギラ照りつけてサウナ状態になるのに比べ、このプレハブは地上から離れているうえに木影があり、昼間も快適に過ごせた。

8月に入った頃、友人は急に里心がついて休暇をとりたいと言い出した。民宿には東京から来た剣道部が20名ほど泊まっているだけで、予約もなかった。ちょうど暇ということも幸いし、友人は3日間休みをもらって家に帰ってしまい、わたしは一人でプレハブ小屋に泊まる事になった。

民宿での仕事は朝早くから始まる。午前4:30には食堂に降りていって、朝食の準備にとりかからなくてはならない。なので、お昼御飯を食べた後、12:30から午後3:30までバイトは休憩時間に入り、みんな疲れて昼寝をするのだ。

友人が家に帰ってしまってから3日目の午後、わたしは早朝からの仕事でくたびれきって昼寝をしていた。ふと目を覚すと、室内がやけに暗い。ゴロゴロと雷の音が聞こえた。夕立ちがくる前の、薄暗く、湿っぽい感じがした。

時計を見ると、まだ3時。仕事開始めまで30分はあったが、雷の音もだんだん近くなるし、小屋のトタン屋根にバタバタと雨も降ってきたので、下に降りて行くことにした。

いつもなら、非常用の螺旋階段を使って降りて行くのだが、この外付けの非常階段には屋根がない。夕立ちはかなり激しく降っていたので、わたしは本館の階段を使う事にした。

わたしと友人が4階のプレハブ小屋を使っているので、この階の非常扉には鍵がかかっていなかった。扉を開けると、本館4階の廊下がまっすぐ伸びている。唯一の宿泊客である剣道部の学生は離れの木造に泊まっていて、本館には誰もいない。お客さんがいないので、電気もついていないし、各部屋のドアは空気がこもらないよう開けっぱなしになっていた。薄暗く、まっすぐ伸びた廊下の突き当たりに階段があり、わたしがそこを目指して歩いていくと、客室のドアの前を通り過ぎるたび、両端の部屋の窓から雷の光が目の端に見えた。

廊下はやけに長く感じられ、わたしはまっすぐ前だけを見て歩いていた。各部屋は廊下を挟んで左右対称になっているので、両側のドアはそれぞれ同じ位置にある。ドアの前を通ると、両側の目の端に、なんとなく左右の部屋の内部が見えた。ひとつ、ふたつ、みっつ、長い廊下に苛々しながら歩いて行くと、6つ目のドアの前を通り過ぎた時、左側の部屋に誰かがいた。

小さな子どもがこちらに背を向けて、テレビの前に座っている光景が、確かに目の端に見えたのだ。

わたしは立ち止まり、もう一度部屋を覗いた。テレビの前に確かに子どもが背を向けて座っている。部屋の入り口には小さな運動靴が一足、きちんと揃えて置いてあった。電気もつけない部屋に、小学生低学年くらいの子どもが一人で座っているのだ。

テレビではワイドショーをやっていたが、音は聞こえない。この民宿には子どもはいないし、親戚の子が遊びに来る、なんて話も聞いていなかった。どこの子だろうと思いながらわたしが声をかけると、その子はわたしに背中を向けたままテレビの電源を消した。

何にも映っていないブラウン管に、前向きの子どもの上半身が反射して見えた。白いTシャツに紺色の半ズボンをはいて、体育座りをしている子ども。それを見て、わたしは違和感を覚えた。洋服や手足はかなりハッキリ映っているのに、顔だけが不自然にボヤけてよくわからない。わたしの心に湧き上がってきた恐怖が合図だったように、その子が首だけを動かしてこちらを振り向こうとした。

わたしはゾッとしてその場から逃げ出した。背後では、あの子どもがドアから首だけを出してこっちを見ているような気がして、とても振り返れない。後ろを絶対に見ないようにして階段まで辿り着くと、転びそうになりながら駆け降りた。頭上の階段の手すりから見下ろされているような嫌なプレッシャー、あの時の恐ろしさは今でも感覚的に残っている。

すでに仕事を始めていた民宿の奥さんに不気味な子どものことを話すと、近所の子どもが勝手に入ってるのかもしれないからもう一度確認してきて、と言われたが・・・・わたしは絶対に嫌だと言って断わった。それで、遅れてきた他のバイトが見に行ったのだが、猫の子一匹見当たらなかったようだ。

3日ぶりにバイトに戻ってきた友人にその出来事を話すと、笑い飛ばされた。だが、そのあと急に真顔になって、去年バイトに来た時も同じような経験をした人がいたと教えてくれた。

その人はバイトを続けられなくなって、辞めてしまったそうだ。

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