怖い話 猫の恩返し

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「虫の知らせ」という言葉がある。

これはそんな「虫の知らせ」が、あまりにも適確に起こった怖い話だ。

数年前、我が家の庭先に老齢のメス猫がやってくるようになった。毛並みが悪く、あちこち傷だらけ。おそらく縄張り争いに負けて我が家に逃げ込んできたのだろう。

いつもなら餌などやらない。居着かれると困るからだ。

以前、優しい気持ちで野良猫たちに餌をやったとき、最終的に16匹もの猫たちの世話をすることになってしまい、餌代や避妊手術代もバカにならなかった。おまけに近所からの苦情もきた。以来、可哀想だとは思いながらも無視することにした。

が、その老齢のメス猫だけは放っておけなかった。妊娠していたらしく、今にも産まれんばかりにお腹が大きい。

出産にも体力がいるだろうし、子育てにも体力がいる。こんな傷だらけで餌も捕れない有様では・・・・想像するとあまりに不憫で、思わず固形フードを与えるようになった。

老猫は我が家の庭のどこかに居着き、そこで子猫たちを生んだ。しまいには、親子揃って縁側で餌をねだるようになった。

やがて子猫たちも大きくなり、一匹、二匹と親離れをしてどこかへ行ってしまった。ところが、一匹のトラ猫だけがいつまで経っても親離れしない。親より大きな体で母親の乳を吸いたがり、餌も獲らない。

最終的に、親猫の方が子猫を我が家に残し、姿を消した。

残されたオスのトラ猫は、それから一年ほど我が家で餌をもらって過ごした。たっぷり美味しいものを食べているのだから、近所のどのオス猫より体も大きかった。それでわたしはある時、そのトラ猫に餌をやりながらこんなことを言った。

「お前はどんなオス猫より立派で強いんだから、そろそろ自分で餌を獲ったらどうだ?」

その次の日だ。トラ猫が庭先から消えてしまったのは。

最初は死んだのではないかと心配していたが、わたしが近所を散歩してた時、例のトラ猫が元気に歩いている姿を見かけてホッとした。猫に人間の言葉が理解できるはずもないが、彼はやっとひとり立ちしたのだ。

それから数年、トラ猫は近所のボス猫として暮らしながらも、我が家の庭先に姿を見せることはなかった。

それがついこの間、突然縁側にやってきて「二ャぁ~」と鳴くのだ。

初めは空耳かと思っていたが、確かに窓の外で猫の声がする。のぞいてみると、あのトラ猫が庭木の下にちょこんと座ってわたしを見ていた。

それからまた、「二ャぁ~」と鳴く。

久しぶりにやってきたトラ猫に嬉しくなって、わたしは急いで冷蔵庫にソーセージを取りに走ると、トラ猫の近くに投げてやった。

ところがトラ猫は見向きもしない。

ただじっとわたしの顔を見つめ、「二ャぁ~」と鳴くと、スタスタと行ってしまった。

ヘンな気分だった。まるで挨拶しに立ち寄ったみたいだ。だが、その時はいくらも気にしなかった。

次の日、我が家で飼っていた愛犬が突然死した。前日まで病気の気配すらなかったのに、朝起きて犬小屋に行くと、愛犬はすでに冷たくなっていた。

それから二週間後、また例のトラ猫が縁側にやって来て「二ャぁ~」と鳴いた。わたしが顔を出すと、確認するようにもう一度鳴き、どこかへ行ってしまった。

二日後、親しくしていた近所の御夫婦が相次いで脳梗塞で倒れ、搬送先の病院で息を引き取った。

一ヵ月後、またトラ猫がやってきて「二ャぁ~」と鳴いた。

さすがにわたしも薄気味悪くなっていた。あの猫が庭先で鳴くと、必ず悪い出来事があると気が付いたのだ。だから無視していたが、いつまでも鳴いている。あんまりしつこいので顔を出すと、わたしの目をじっと見つめた後「ニャぁ~」と鳴き、その場を去った。

その日の晩、実父が網膜はく離で緊急入院の連絡があり、病院へ直行。命に別状はなかったが、やはり悪いことが起こった。

以来、トラ猫は6度わたしの家を訪れては「ニャぁ~」と鳴き、その度に不幸が訪れる。その話を友人にすると、「猫の恩返しじゃないか」と言われたが・・・ちょっと複雑だ。

あのトラ猫は「虫の知らせ」の使者だろうか。それとも本当に恩返しのつもりなのだろうか。

猫の声がすると、ちょっとドキドキする。

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