ある映像製作プロダクションでアルバイトをしていた時の話。そこは番組やCM制作の他にも個人の映像制作も請け負っていた。結婚式や七五三やイベント等の撮影と編集だ。アルバイトだから番組やCMの制作はやらせてもらえない。(というか、できない)機材の基本的な使い方をマスターすると、いきなり結婚式の撮影。
ある時、わりと親しかった正社員のカメラマンと一緒に結婚式の撮影をまかされた。その日の新郎新婦は二人ともまだ若く、21才の同級生カップルだった。花嫁の父親は彼女が中学生の時に亡なったという母子家庭育ちで、そのせいか母親や妹さんとも仲がいい。苦楽を共にし、信頼し合っているという感じだった。新郎新婦共に笑顔が可愛く、素直で明るくて、こーいう人たちのビデオはしっかり映さなくちゃな、という気にさせられた。
やがて式が終わり、披露宴が始まった。新郎新婦入場から来賓の祝辞・友人からのお祝の言葉、それらもスムーズに撮影し、やがて花嫁がお色直しで退場した。次に入場してくる時はウェディングケーキ入刀だ。ところが、いざケーキ入刀の時になってカメラマンの様子がおかしい。予備のハンディーカメラを持ってくるように、彼はそっと耳打ちした。わたしが慌ててハンディーカメラを用意すると、そのまま撮影しろと合図する。わたしは理由もわからずにカメラをまわした。
披露宴が終わると、カメラマンは新郎新婦とその家族の所へ挨拶に行き、必死に頭を下げていた。あとで理由を訊いてみると、ケーキ入刀の時からカメラの調子がおかしくなり、モノクロ画像になってしまったかもしれない、とのことだった。会社に戻ってモニターで確認してみると、やっぱりケーキ入刀の場面からすっかりモノクロになっている。おまけに、ヘンな影みたいなものが花嫁の背後に寄り添うように映っているのだ。それはまるで人影のような形だった。その人影はケーキ入刀のシーンから披露宴が終わるまで、ずっと花嫁の背後にうっすら映っていた。
途中からモノクロになってしまった結婚式のビデオを見て、花嫁とその母・妹は、亡くなった父親の幽霊じゃないか、そんなことを言ったらしい。きっと娘の晴れの日を見たくて、あの世から戻ってきたに違いない、と。で、撮影に失敗したことは水に流し、当初通りの撮影・編集代を支払ってくれた。
何年か経って、わたしもその会社のアルバイトなんかとっくに辞めていた頃、焼き鳥屋で例のカメラマンと偶然再会した。そこであの時の新郎新婦の後日談を聞いた。
あの後、若い二人はすぐに子供を授かり、女の子が生まれた。赤ん坊のお宮参りのお祝いの席で、また撮影の依頼があった。会社には数人カメラマンがいるが、なぜかまた自分が担当になってしまい、撮影に出かけると、再びカメラに不具合が発生。今度は音声が全く入っていない。謝りに謝ったが、結局撮影と編集料金を半額にすることで折り合いがついた。
その三年後、今度は女の子の七五三のお祝を撮影して欲しいと依頼があった。彼は過去の苦い経験があるので別のカメラマンを行かせてくれと頼んだ。ところが七五三当日になって担当するハズだったカメラマンが急病で欠勤。他のカメラマンもすでに各自の現場へ出発してしまった後で代わりの者がいない。休暇をとっていた彼は社長から電話で呼び出され、また例の新郎新婦たちの撮影をするハメになった。
3度目の撮影もスムーズにいかなかった。カメラは順調に回り、撮影中の確認モニターにもしっかり録画されていたのに、会社に戻っていざ編集してみると何も映っていない。最初から最後まで、まったくなんにも映っていなかった。
カメラマンは菓子折りを片手に、3度目の謝罪にでかけた。無茶苦茶怒られるだろうと覚悟を決めていると、相手も以外と冷静だった。3度撮影をお願いして3度とも失敗。もしかしたら祟られているんですかね、花嫁は静かにそう言ったという。
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