怖い話 エレベーター

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よく遊びに行く、仲のいい友人がいた。

友人は10階建てマンションの9階に住んでいて、仕事が終わった後 今から遊びに来ないか? と誘うのだ。暇な時はわたしもその誘いに乗って、よく友人のマンションに遊びに行ったのだが、マンションに着くのはいつも午後11時過ぎか、遅い時には午前0時を回る事もあったた。

10階建てのマンションだから、もちろん、エレベーターがついている。定員8名の、狭いエレベーター。扉には細長いのぞき窓がついていて、各階を通り過ぎる度に、その窓からエレベーターを待っている人や、廊下を歩いている人が見える。

その日も午後10時半過ぎに誘いの電話があって、わたしは出かけることにした。夜遅いので、マンションの入り口には人影もなく、シンとしている。

9階のボタンを押してエレベーターが降りてくるのを待っていると、扉の上に付いている3階を示す電気がピカッと光って、しばらく動かなかった。誰か乗ってるのかな、そんなことを考えていると、やがてエレベーターが降りてきた。てっきり3階から人が乗ったと思っていたわたしは、少し目を反らしてドアが開くのを待ったのだが・・・・静かに開いたエレベーターには誰も乗っていない。青白い蛍光灯だけが、狭いエレベーターを寂し気に照らしているだけだ。

アレ? 

ちょっと拍子抜けしながらも、わたしはエレベーターに乗り込んだ。その時、わたしの背後から誰かが横をすり抜けてエレベーターに乗った気がしたので、周囲を見まわした。でも、誰もいない。不思議な気分で9階のボタンを押し、エレベータ−が動き出した。

2階、3階、とエレベーターは何事もなく昇っていった。各階を通り過ぎるたび、扉についた細長い窓からそれらの廊下が薄暗く見える。すると5階を過ぎた時、廊下に誰かが立っていた。距離があったので詳しくはわからないが、確かに小さな人影が立っていた。エレベーターはさらに昇っていく。

6階を過ぎ、7階を過ぎ、8階を過ぎた時、やっぱり廊下に小さな人影が立っているのが見えた。今度はさっきよりもっと近く、廊下の電気に照らされて、それがボーダーのTシャツを着た子どもだということがわかった。

こんな時間に、子ども? 

ちょっと不審な気もしたが、その時はあまり深く考えなかった。やがてエレベーター数字が9階を示した。降りようと思ってドアの真ん前で待っていたわたしは、エレベーターが止まらずにスウッと昇っていくのでギョッとした。

あわてて9階のボタンを何度も押したが、エレベーターはそのまま最上階の10階まで昇っていく。故障したのかと焦っていると、エレベーターが10階で止まりドアが開いたので、わたしはそこで降り、エレベーター脇の階段を使って9階へ戻ることした。こんな夜遅くに、またエレベーターが止まらなかったら困るからだ。

エレベーターを降りてすぐ左脇の階段へ体の向きを変えた時、視界の隅にエレベーターのドアが閉まるのが見えたのと、サッと血の気が引いたのは同時だった。

誰も乗っていないハズのエレベータ−の中に、白目をむいたのTシャツ姿の男の子が立っていたように見えた。思わず立ちすくんだが、エレべーターが完全に閉まる前にわたしは駆け出した。

飛び降りるように階段をくだって9階の廊下に足がついたとき、エレベーターが10階から降りてくる気配がした。わたしはそのまま友人の部屋を目指して走り、インターホンを押しまくった。友人はのんびり返事をしながら、なかなかドアを開けてくれない。エレベーターのドアが開くのが判ったので恐々そっちを見ると、誰も乗っていない。でも、早くその場から逃げ出さなければいけないような、自分の方にどんどん迫ってくる危険な気配を感じる。本能が早く逃げろとサイレンを鳴らしているようだった。

早く! 早く! 早くっ! 

心臓バクバクになりながらインターホンを押し続けると、やっとドアを開けてくれたので、わたしは友人を押し倒すような勢いで中に入ると、ドアを閉め、鍵をかけてチェーンもした。その普通じゃない様子に友人は怪訝な顔つきをしたが、質問することはできなかった。なぜなら、すぐに部屋のドアをノックする音がしたからだ。

最初は 

コン コン・・・

だったノックの音は、だんだん激しくなり

ドン ドン ドンッ!! ドンッ ドンッ ドンッッ!

と、ドアが破壊されるんじゃないかと思うくらい凄まじくなった。

わたしは鍵とドアノブをきつく押さえたまま、ギュッと目をつむっていた。脳裏には、あの白眼をむいたボーダ−Tシャツの男の子の姿がイヤでも浮かぶ。その状況にビックリして声も出なかった友人は、怖さのあまりか、腹がたってきたのか、しまいにはドアの外の誰かに向かって

やめろぉっっっ!!

と、大声で怒鳴った。すると 何かが腐ったようなツーンとした臭いのあと、外は静かになり、そのまま何の音もしなくなった。

しばらく二人とも黙って様子を伺っていたが、ドアを叩く音はそれきりおさまって、シーンと静かになったた。その夜、わたしは友人の部屋に泊めてもらって、さっき経験した出来事を話した。こんなことは信じない友人も、青白い顔のまま黙って聞いていた。

今でも、友人は例のマンションに住んでいる。別段かわった事は起きていないようだが、わたしは夜中に友人の部屋に遊びに行くのはやめた。もし行くとしても、友人にマンションの入り口まで迎えに降りてきてもらうことにしている。

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