不思議な場所 人穴│洞窟の怖い話

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静岡県の富士宮市に人穴(ひとあな)と呼ばれる洞窟がある。

洞窟フリークな友人がいて、数名の友だちと一緒にドライブがてらたまに訪れるのだが、そこに行くたびに、いつも妙な事が起こるのだ。

人穴は怪奇スポットではない。入り口には鳥居が建っていて、そこを車でくぐり抜けると広い空き地がある。

空き地の奥にある石階段の両側には古い石碑の数々。

階段を登って行くに連れ石碑の数は増え、一番上には小さな神社と、傾きかけた百あまりの石碑群。

神社のすぐ右手には「人穴」が半月状の口をポッカリ開けている。

「人穴」入り口の真上にはやはり石塔、そしてしめ縄。

そう、ここは地元の人にとっては神聖な場所なのだ。

静岡県富士宮市の史跡にも指定されている「人穴」は、古くから富士講の重要な祭事の場所だった。

山岳信仰としての富士登山をする者の多くは、この神社に参拝してから登山する習慣があった。古い石碑は富士信仰をしていた人たちが寄贈したもの。

しかし、とにかく不気味な場所なのだ。

幽霊が出るとか、怪奇スポットとか、そういう「怖さ」ではではない。

人穴に行くといつも思い出してしまうのは、子どもの頃に聞いた昔話だ。

山姥や鬼に追いかけられる話しを初めて聞いた時、本当にそういうモノが山奥のどこかに住んでいるような気がして、理由もなく怖くなったのを思い出してしまう。

「人穴」はそーいう所。

人穴に入るには急な石階段を降りなければならない。観光洞窟じゃないので、電気も無い。

中は真っ暗で何も見えず、底冷えのする冷気が洞窟の奥からヒタヒタと迫ってくる。

懐中電灯を片手に洞窟へ入ると、入り口から数mの所に簡素な祭壇のようなものがあって、今でもそこで祈りを捧げる人がいるようだった。足元はゴツゴツした溶岩と、泥のぬかるみ。

洞窟全体がしっとり濡れているので、うっかりしていると滑って転ぶ。

わたしたちはいつもその祭壇の所までしか入ったことがない。洞窟フリークの友人も、どういう訳か奥まで行く気にはなれないようだった。

それから、わたしたちが洞窟を出て駐車場に戻ると、いつも決まって雨が降り出すのだ。

何故か人穴へ行く日は天気が悪くて、洞窟へ入るまでは青空だったとしても、夕立ちが降ったりする。

最初の日は霧雨だった。

冷めたい霧雨から逃れるように車へ乗り込むと、友人の一人が「誰かの話声が聞こえる」と言った。

耳をすましてみると、車外のどこか遠くない所で大勢の人間がヒソヒソ話をしているようだった。

何を話しているのかはわからない。それは人の声のようでもあり、もっと別の世界の言葉のようでもあったが、確かに大勢の「なにか」がわたしたちの方を観察しながら、ヒソヒソと話しているように聞こえた。

次に訪れた時にも帰りぎわに雨が降り出した。

車に乗り込んでエンジンをかけると、アクセルを踏んだ瞬間に車体がガクンッ!! と揺れ、止まってしまった。

まるでなにかに車を引っ張られたようだった。

気持ち悪くなって更にアクセルを踏み込むと、今度は急に走り出してあやうく近くの木にぶつかりそうになった。

三度目には大きくて真っ黒い人影を見た。

駐車場隅の簡易トレイ後ろの木立に、もやもやと輪郭のハッキリしない大きな人影が立っていた。

トイレの大きさから推定すると、身長3mはあったかもしれない。

四度目は不思議で美しい光景だった。前日に台風が過ぎたばかりで、人穴の内部には水がたまっていた。

まるで小さな湖のようだ。ゴツゴツした洞窟内の壁には、誰が灯したのか、数百もの蝋燭がゆらゆら揺れていた。

その光は洞窟の遥か奥まで続いていた。

壁に灯された沢山の蝋燭。

それらの光を反射する鏡のような水面。

この世のものとは思えないほど美しい光景だった。わたしたちがその光景に見入っていると、洞窟の奥からひとりの老婆が膝まで水につかりながら歩いて来て、わたしたちの目の前を無言で通り過ぎ、外へ出て行った。

この間、久しぶりに訪れた時には酷いどしゃ降りに襲われた。

車を走らせるのが困難なほどの凄い勢いで、風も強く、雷が轟き、わたしたちは1時間近く人穴の駐車場に閉じ込められてしまった。

富士宮市の「人穴」、おヒマな方は一度行ってみて御覧なさい。

だが、ひやかしや肝試し気分はやめた方がいいかもしれない。「人穴」はそーいう場所だ。

あと、近くに「婆穴」と呼ばれる洞窟があるらしいが、場所がわからない。

百年くらい前までその洞窟は「姥捨て山」のかわりとして使われていたらしく、経済的な理由で養えなくなった年寄りたちをそこに置き去りにしたようだ。明治の中頃まで「婆穴」の中には沢山の白骨が野ざらしになっていたとか。誰か、知りませんか?

ちなみに、現在は洞窟崩落の危険と文化財保存の観点から、人穴には入れない。どうぞご注意を。

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