怖い話 病院の人

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4人部屋の病室に父が入院していた。

新しい病院だから部屋は明るく、設備も整っている。部屋にはトイレと洗面台が備え付けられていて、同じ部屋の人間が共同で使用する。

父がその部屋に入院したとき、部屋には二人の入院患者がいた。父は窓側のベットに寝かされて、一ヶ月ほどそこで療養することになっていた。

四人部屋に、三人が入院している。父が寝ている隣りのベットは空いていた。わたしたち家族はお見舞いにやってくる度、その空いているベットに腰掛けて長々と話をしたものだ。

ある日のこと、わたしは仕事が早くきりあがったので、母に頼まれ、父の着替えを持って病室を訪れた。

この病室の入り口には、すぐ左手にトイレがある。トイレを我慢して病室までやってきたわたしは、父の顔を見る前に用を足そうと思っていた。邪魔にならない場所に荷物を置いて、トイレのドア開けた。・・・わたしは一瞬、腹の底から血の気が引いた。

トイレの中に、卒塔婆があったのだ。

亡くなった人の戒名などが書いてある、木の札。
普通は、墓場にあるものだ。

ただ、トイレの中にあった卒塔婆は新品らしく、白木で、なんにも記されてはいない。戒名も書いてない。

けれども、どんなに新品でも病室のトイレに卒塔婆があるのは異常だと思った。イタズラにしては悪質だ。

わたしが看護婦さんを呼ぼうとすると、父がベットのカーテン越しに顔を出して、手招きしている。あんまり騒ぐんじゃない、そう言っているようだった。

わたしは用を足すのも忘れ、荷物を持って、不承不承父のベットに向かった。向かいながら、いつもカーテンが開け放ってあった隣りのベットを眺めた。今日はカーテンが閉められている。新しい入院患者が入ったらしい。

隣のベット、新しい人が入ったんだね

わたしが言うと、父は、ちょっと不思議な顔つきをしてささやくように言った。

トイレの中にあったのも、お隣さんの忘れ物だ

わたしは驚いた。

卒塔婆が忘れ物?

隣のベットの入院患者の持ち物っていうことなのか?

なんだか騙されているような気分で母から預かった洗濯物を取り出し、ベット脇の棚に出し入れしていると、看護婦さんが検診にやってきた。看護婦さんが隣のベットの人に声をかけたとき、閉められていたカーテンの隙間から、中の様子がチラッと見えた。

70歳くらいの痩せた男性が上半身を起こしてベットに座っていた。ベットの脇には、数本の卒塔婆が置いてあった。トイレの中にあった卒塔婆と同じように、どれも新品だった。

驚いているわたしに父が言った。

新品だから、ただの板切れなんだと。だから病室に持ち込んでもいいんだとさ。看護婦さんや先生がいくら言ってもダメらしい。それが原因で、他の病院から回されたんじゃないか?

それにしても・・・とわたしは思った。

病室に卒塔婆。

ジョークでも見たくない人もいる筈だ。

その人は、救急車が病院に入るたび、卒塔婆を持って院内をうろついたようだ。

一週間もすると、隣のベットの男性はいなくなっていた。

退院したのか、退去させられたのか判らない。

本当にあった、リアルな怖い話。

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