これは、いつもの帰り道で友人が遭遇した怖いお話。
小さな神社と墓地に挟まれたその道は、夜になると歩く人もいないさみしい所で、友人がいつものように家路を急いで自転車を飛ばしていると、
痛いっ!?
鳥居の前まで来たとき、おでこに、コツン、と、小石のようなものが当たった気がし、ブレーキをかけて足元を見ると、白いチョークで道路にいたずら書きのようなものがしてある。パッと見ただけでは何が書いてあるのかわからないくらいそれは大きくて、チョークの線を何気なく目で追っていくと・・・
やだ・・・・
事故現場なんかで死体の周りを囲って書く、あのしるしのような人型が、彼女の乗った自転車の真下にあった。
彼女が急いでそこから離れたのは言うまでもない。でも、その先の赤信号でつかまってしまい、しぶしぶ止まった彼女は、交差点の店の窓に映った自分の姿がやけに気になった。
黒い鏡のように彼女の上半身を映す窓。そこに映っている自分が、どこかおかしい気がするのだ。
はじめは見間違いだと思った。あれは窓ガラスだから、鏡みたいにちゃんと映らないんだ、暗いから、そんな風に見えるだけだ・・・そう自分に言い聞かせが、よく見れば見るほど、何がおかしいのかハッキリしてきて、息が止まりそうになった。
彼女の顔に張り付いた、別人の顔。たぶん、彼女と同じ年ごろの女で、彼女がおそるおそる自分の顔を手で触ると、窓に映った自分も同じ動きをし、その手の中で、女の顔だけがニタリ、と笑った。
それから先はよく覚えていないと言う。腰が抜けそうだったが、動けなくなる前に逃げなくては、と、とっさにそう思ったのだろう、彼女は赤信号を無視して無我夢中で自転車を走らせた。
家に着くと、母親がキッチンから出てきた。彼女がひどくうろたえながらバタバタと帰ってきたので、気になったのかもしれない。何か話しかけてきたが、彼女は顔を見られたくなくて、隠れるように自分の部屋に飛び込んだ。母親に見られたとき、自分の顔が別人だったら・・・・そう思ったら、怖くて、怖くて、カバンを置いて、鏡を手に取っても、もし・・・もし、鏡の中であの女が笑っていたら・・・・想像すると、鏡を持つ手が震えた。でも、ちゃんと確認して安心したい・・・その思いが強くなって、ゆっくり、ゆっくりと目を開くと・・・
そこに映っていたのは見慣れた自分の顔。やっぱり見間違いだったんだ・・・ホッとして鏡を置こうとしたときだ。彼女の真後ろを誰かが通ったようにサァッ!と空気が動いた。とっさに振り向いたが、誰もいない。
おかしいなぁ・・・。
気分がすっきりしないまま、とりあえず着替えてしまおうと制服を脱いだ時、コロッ、と、小石のようなものが転がり落ちた。神社の前でおでこに当たった小石かもしれない、そう思って床を見ると、そこに落ちていたのは、折れた人間の奥歯だったのだ。
同時に、
コンコン!
タイミングよくノックの音が聞こえ、彼女はびっくりしてドアを見た。
コンコンコンッ!!
思いがけないことに、声も出ない。最初は控えめだったノックは、だんだん怒りが籠って大きくなってくる。どうしたらいいかわからなくて、両耳を押さえてしゃがみ込んだ時。
ちょっと、なにやってんの?
そう言って入ってきたのは母親だった。片手にはジュースが乗ったお盆を持っていて、うずくまっている彼女を見て、あれっ?という顔つきをしながら、部屋の中をキョロキョロ見回し・・・
ねぇ、お友達はどこ?
母親は、彼女が友達を連れて帰ってきたと思ったのだ。彼女が女の子と一緒に二階へあがっていったと言う。
翌日、母親は近所の人から色々情報を集めたようだが、あの道で事件や事故が起きたことはなく、チョークで描かれた人型も見当たらなかった。
持ち主のわからない奥歯は、母親がどこかに処分したそうだ。
怖くて、気味の悪いお話。
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