「こっくりさん」についての怖い話はいろいろある。これはわたしが中学生の頃、おもしろ半分にコックリさんをした為に起こった不気味な出来事だ。
わたしが通っていた地方都市の学校には、生徒の間で信じられている学校の七不思議のようなものがあった。音楽室のピアノが夜中に鳴り出すとか、生徒会室の柱に浮き出た人面のようなシミが巨大な顔になって廊下を走り回るだとか、よくあるお話。
その中のひとつにコックリさんの話しがあった。話しと言っても、特に何が起こるという具体的なものではなく、ただこの学校内で絶対にコックリさんをしてはいけない、という決まりのような話しだ。わたしたちはこの話しを部活の先輩から聞いた。
ある日の放課後、部員の集まりが悪くてヒマを持て余してしまったことがある。
ほとんどの人は家に帰ったが、わたしと、同級生の男子、それから一年上の先輩は部室に残って下らない話題で盛り上がっていた。コックリさんをやってみようと言い出したのは、先輩だったと思う。わたしと同級生は気がすすまなかった。でも先輩は紙と鉛筆を用意してコックリさんの準備をしてしまい、一緒にやろうと執拗に誘うのだ。
なんだか半分怖いような気持ちでコックリさんが始まった。誰が誰のことを好きだとか、あの先生の頭はカツラだとか、たあいもない質問をわたしたちがすると、コックリさんはわたしたち三人が握る鉛筆を使って、ハイ・イイエで答えてくれる。
わたしにはどうもその先輩が鉛筆を動かしているようにしか見えなかったのだが、同級生はコックリさんの返答にいちいちビックリして、その面白さにハマってしまったようだった。そしてついにはこんな質問をした。「俺は何才まで生きられますか?」 コックリさんは「20」という数字を示した。
そんなわけないじゃん、わたしも、先輩も、質問した本人も、コックリさんの答えに笑ってしまった。
その時だ。
部室のドアが開いて、この学校ではコックリさんをしてはいけないよ、という話しを教えてくれた三年の先輩が入ってきた。コックリさんはそこで中断された。本当は、コックリさんを呼び出したのと同じに、元の世界へ帰ってもらう手順があるようだが、わたしたちは紙をグシャグシャに丸めてゴミ箱へ放り込んでしまった。
おかしなことが起こり始めたのは次の日からだ。生徒達の間で「幽霊が見える」という噂話しが流れ出した。初めは噂話しにしか過ぎなかった幽霊話しはあっとう間に学校中に広まって、休み時間になるとみんな廊下に出て来ては、あの教室の壁に霊がいるだとか、向こうの廊下の隅に小さな女の子が立っているだとか、そんな話しをしながら真剣にそれらの壁や廊下を眺めている。中には本当にそれが見えると騒ぎ出す生徒も何人かいて、まるでみんな幽霊にとりつかれてしまったようだった。
先生たちも生徒のそんな状況に頭を悩ませていた。生徒の幽霊騒ぎはどんどんエスカレートして、自分には霊能力があると言い出す生徒まで出てきた。それをきっかけに学校内で幽霊の話をするのは禁止されたのだが、みんな先生たちの目を盗んでは幽霊話しで盛り上がっていた。
そんな騒動が落ち着いたのは、わたしたちがコックリさんをした日から数えて49日目のことだ。日直で戸締まりをしていた女の先生が、幽霊のようなモノが歩いているのを目撃して失神してしまった。ちょうど階段を降りている所だったので、驚いて足を踏み外し、そのまま数段転げ落ちてしまったのだ。不思議な事に、それを境に幽霊騒動はピタリと治まった。
だが、本当に怖いことはそのあとずいぶん経ってから起こった。そう、例の同級生がスクーターに乗っていて事故に遭い、死んだのだ。コックリさんの予言どおり、20才の冬のことだった。霊前に掲げられた彼の写真を見た時、わたしはあの時のコックリさんを思い出したのだ。
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