怖い話 防犯カメラの怖い話

スポンサーリンク

知り合いに泥棒地帯に住んでいる人がいる。

泥棒地帯・・・大袈裟かもしれないが、その人の家の近所では物が盗まれることが多く、近所同士で互いに目を光らせていようと相談するぐらい、日常的に物が盗まれる。

一人暮らしのおばあさんの家では仏壇に隠しておいた現金が盗まれるし、ある家では窓の近くに置いてあった財布から現金が抜かれるし、ある家では玄関先の鉢植えや縁台がなくなるし、隣の家では鍵のかからない物置からゴッソリ何もかも盗まれて、ゴミしか残っていなかった、という話もあった。

言うにもれず、わたしの知り合いの家も何年にも渡って盗難の被害著しく、鉢植え数個、自転車三台、現金数万円、お菓子二袋、農業用資材諸々、肥料数袋、傘立て二つ、物干し竿三本、飼い犬二匹、タイヤ四つ、果ては庭石まで、およそ盗れる物なら何でも持ち去る、といった具合で、彼は相当頭にきていた。

・・・なに、犯人はわかってる。近所の人たちだってみんなわかってるさ。盗っ人は近所に住んでるアイツだ。だが、現行犯で捕まえるか、隠し撮りでもして証拠をつかまなければ警察だって手が出せない。最近は夜でも録画できる、手頃で、性能のいい防犯カメラがあるというから、それを仕掛けようと思ってるんだ。

三匹目の飼い犬を盗まれたとき、彼はわたしにそう言った。

それから半年ぐらい経っただろうか。用事で彼の家に行ったとき、面白いモノが撮れたから見てくれ、と、彼が防犯カメラの録画記録を見せてくれた。

例の泥棒が撮れたのか?

そう訊くと、

いいや、残念ながら相手は本当の盗っ人だから、カンが良くてカメラを仕掛けて以来なにも盗まれないんだ。なに、そのうち我慢できなくなってまた盗むさ。今回撮れたのは別の泥棒だ。なかなか、おかしいぞ。

防犯カメラの白黒画像には、数人の男たちが映っていた。彼の家は田舎の兼業農家で、母屋から離れた所に納屋が二つある。その納屋のひとつに仕掛けた防犯カメラに、盗みの犯行現場がバッチリ写っていた。

まず、納屋の前に軽トラックが乗り付け、車内から二人、荷台から二人、計四人の男たちが降りてきて、足早に納屋に入って行った。その古い納屋は、普段、畑仕事に使う農具などをしまっているだけなので、扉もついていない。男たちはすぐに大きな物・・・黒くて、丸くて、巨大なものを四人ががりで運び出してきた。彼らはそれを軽トラックの荷台に積み込み、二人は運転席と助手席へ、あとの二人は荷台に乗ってその場を去った。乗り付けてから去るまで、ほんの数分だろう。実に手慣れた様子だった。

・・・これのどこがおかしいのか、わたしには判らなかった。盗みの現場を見るのは確かに興味深いが、とりたてて面白いとは思えない。

こっちは三日後に撮れたヤツだ。

彼はそう言いながら、おもむろに二本目の画像を見せてくれた。

この二本目の画像も軽トラックが納屋に乗り付けるところから始まった。男たちも四人降りてきた。さっきの画と違うのは、持ち去る、のではなく、持ち込んでいる、というところだ。

男たちは荷台から大きくて丸い物を重そうに下ろすと、急いで納屋に運び入れ、何も持たずに中から飛び出してくると、まるで恐ろしいモノから逃げるようにその場を去った。見る限り、彼らが持ち込んだのは、一本目の録画時に盗んで行った物のようだった。

な? おかしいだろう?

不可解な顔つきのわたしに、彼は笑って言った。

奴ら、盗んだ物をわざわざ返しに来たんだ。

彼の話はこうだ。

男たちが盗んで行ったのは「大きな鉄鍋」なのだと言う。大鍋が盗まれる数週間前、この辺りに中国人らしい男たちがやって来て、「必要ない金物を回収します」と、家々を訪ねて歩いていた。男たちは彼の所にもやってきて、「いらない金物をタダで回収するよ。壊れた農具でも、冷蔵庫でも、動かない耕運機でも、金物が使ってある物ならなんでもいいよ」と、片言の日本語で言ったという。

ちょうど納屋の整理をしていた彼は、捨てる手間が省けると思って、必要ない物を色々持っていかせることにした。彼は男たちを納屋や物置に案内して、あれこれ運び出させた。処分したいものをほとんど運び出した時、男の一人が巨大な鉄鍋に目を付けた。五右衛門風呂にでもなりそうな大きな鉄鍋は、無頓着な様子で納屋の奥に埃まみれになって置かれていたから、いらない物だと思ったのだろう。だが、彼は断った。これはダメだ。お前ら、夜中に勝手に来て盗むなよ!・・・彼は笑いながら念を押したと言う。

・・・好景気な中国じゃぁ金物が高く売れるから、日本の田舎まで中国人がやってきて、金物をあさるって話はよく聞いていたからな。いらない物ならクレてやるが、いるものまで持ってかれたんじゃたまらない。高く売れるとなれば、ああいう連中は何をするかわからないだろう?なにしろあの鍋は、そりゃぁでっかい「鉄の塊」だからな。

彼はさも愉快そうに言った。

盗まれた鉄鍋が戻ってきた・・・それは確かに愉快だ。しかし、それほどおかしくはない。感じるのは面白さとしての「おかしさ」ではなく、盗品を返しに来た彼らの行動についての「不可解なおかしさ」だろう。

犯行現場に戻るのは本来危険なハズ。盗まれた側が待ち伏せているかもしれないのだから。なのに危険をかえりみず、わざわざ盗んだ品物を返しにくるなんて、よほどの事情があったに違いない・・・わたしがそう考えを巡らせていると、彼は一本目の録画画像を、もう一度映した。

まぁ、よく見てみればわかる・・・そう促されてよく観察していると、最後の方で違和感があった。わたしの違和感を察して、彼が言った。

な?荷台に四人、乗ってるだろう?

・・・男たちは四人で盗みにやって来たハズ。そのうち二人は助手席と運転席に乗り、残りの二人は荷台に乗った。なのに、庭から道路へ出る瞬間の荷台には、確かに四人乗っているのだ。

実はこの鉄の大鍋、第二次世界大戦中に兵士の訓練場で煮炊きに使われていた物だという。当時、この辺りには陸軍の訓練場があった。召集令状をうけて集められた男たちはみな一般人。すぐ戦地に送り出しても使い物にならない。集められた男たちは一定期間、日本の各地に設けられた訓練場で軍の規律や武器の使い方、戦い方、心構えを仕込まれて、遠い戦地に送り出されたのだ。この鉄の大鍋は、彼ら兵士予備軍の食事を作るために使われていた物で、終戦後、彼のお父さんが持ち帰ったのだという。

・・・こんなでっかい鉄鍋、ひとりじゃとても持てないし、邪魔だから捨てようと思ったこともあるが

彼は言った。

この鍋で飯を食った人のうち、一体どれだけ生きて戻れたのかと思うと、とても捨てられない。名前もよく知らない人たちだが、骨さえ帰れなかった人たちの大事な遺品だ、と、おやじが生前しきりに言ってね。それでずっとここにあるんだ。そんなものを盗んだから、きっと奴ら、よっぽど怖い目に遭って、間抜けにも鍋を返しにきたんだよ。

荷台に乗っていた謎の二人。この大鍋で飯を食い、どこかで戦死した兵士の魂だろうか?それとも、ただの目の錯覚?

彼らがなぜ大鍋を返しに来たのか、彼らに一体何が起こったのか、おかしく、不思議で、本当にあった怖い話。

スポンサーリンク
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次