怖い話 電話魔

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電話好きな友人がいて、彼女は毎日のようにわたしの自宅や携帯に電話してくる。

電話に出たものなら最低2時間は解放してもらえない。

話の内容はくだらない。職場の愚痴 彼氏の愚痴 両親の愚痴 友だちの愚痴 数限り無い愚痴を延々と喋り捲るのだ。わたしが話題をかえようとしても無理矢理自分の愚痴に流れを戻す。

彼女はごくフツーの女の子だ。日常生活を見る限り特別な欠点は見当たらない。ルックスもまあまあ、友だち付き合いも良く、優しい気遣いもある。「電話魔」だということだけが難点なのだ。

ある時、彼女と共通の友人に「彼女の長電話」について愚痴ってみた。そこで初めて知ったのだが、彼女の長電話はどうやら相手がわたしに限ってのことらしい。他の友人には用事以外で電話がかかってくることはないし、用件が済めばあっさり切ってしまうという。

彼女に悪意はないのだろうが、これは何とかすべきだと思った。毎回2時間も愚痴を聞かされるのはいい加減うんざりしていたのだ。

彼女から電話がかかってきた時、わたしはそれとなくプライベートや仕事で忙しいと告げた。

「そうなの、大変だね」

彼女は軽く返答し、また延々と愚痴をこぼす。まるでわたしの言い分など聞いていない。わたしは適当な理由をつけて強引に電話を切った。次に彼女から電話がきた時も同じように電話を切り、かかってくる度に会話の時間を短くした。

おそらく彼女はわたしの態度が不満だったろう。だが、わたしに直接モンクをぶつけることはなかった。「そっか、忙しいんだね」従順にそう呟いただけだ。

怖いことは次の日から起こった。帰宅すると留守電の件数が78件。全てが例の彼女からの愚痴話しだった。初めの10件までは聞いてみたが、残りは当然消去した。

その夜中だ。いきなり自宅の電話が鳴ってFAXが動き出した。彼女からだった。

「返事だけでも聞かせてって言ったのに、連絡くれないからFAXします」

そう前置きが書かれたFAXはいつまでも受信し続け、交換したばかりのロールを全部使い果たしてしまった。部屋の中はFAX用紙の海だ。わたしは途方に暮れながらも腹が立ち、散乱する用紙を掻き集めてゴミ袋に詰め込んだ。

次の日はFAXも留守電も届いていなかった。仕事に出かける前にわざとセットしなかったからだ。安心して帰宅し、パソコンの電源をいれるとメールが届いている。ケータイメールが嫌いなわたしは、親しい人たちとメールでやり取りする時いつもパソコンを使っている。そのパソコンに186件ものメールが届いていたのだ。

どこからわたしのアドレスを知ったのか(彼女とその共通の友人たちにもアドレスは秘密にしていた)相手はやっぱり「彼女」からだった。

同じ件名 ※「返事下さい」が186件も並んでいるのを見るとゾッとした。彼女は携帯電話からメールしてきたのだろう。長文は送れない。パソコンメールで見ると4行ほどの文面が186件延々と並び、しかも増え続けている。

アドレスを替えようと思ったが、このPCで連絡を取り合っている人全員に伝えるのは面倒だった。やはり無視するに限る。彼女とは格別親しかったわけじゃないし、趣味もあわない。ここで縁が切れても困らない、いや、むしろ喜ばしい、そう思うようになっていた。

彼女からの連絡はその日から一切無視した。相変わらず電話もかかってきたが受信拒否。メールは消去。手紙は封も切らずにゴミ箱行きだ。徹底的にそうしているうち、一ヶ月もすると彼女からの嫌がらせに近い行為はピタリと止まった。

同時に、彼女と共通の友人達とも連絡がとれなくなった。街で偶然行き会ってもわたしの姿を発見するなり進路をかえる。どう考えても不自然に避けられるようになった。

数年後、彼女達グループとは無関係の人間から、わたしが極悪人だという噂がある、という話を聞いた。どういう風に極悪人なのかはその人も詳しく知らないが、そういう噂があるという話しだった。

噂の出所は「彼女」だろう。そんな人間と縁が切れてせいせいしているが「どんな噂」なのかが怖いところだ。

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